武雄市の新・図書館構想についての日本図書館協会の見解


公立図書館は,図書館法に基づいて地方公共団体が設置する図書館であり,教育委員会が管理する機関なんだそうです。

武雄市の新・図書館構想について

2012年5月28日
社団法人日本図書館協会

 5月4日に発表された「武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について」には、図書館運営のあり方に関わって解明されるべきことがあります。
 「基本合意の骨子」(以下、「骨子」)として、「武雄市図書館・歴史資料館をより市民価値の高い施設として運営するにあたり、CCC[カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社]が運営する"代官山 蔦屋書店"のコンセプト及びノウハウを導入し、企画すること、及びそのための重要な手段として付属事業を展開すること」と述べ、「提携により武雄市図書館にて実現する9つの市民価値」(別掲。以下、「9つの市民価値」)を挙げ、指定管理者制度により図書館の管理運営をすることとしています。

1 指定管理者制度導入の理由は何か

 公立図書館の管理運営の方法、形態は、それぞれの自治体が地域の実状に即して創造されるものですが、教育委員会が直接行うことを原則としております。指定管理者制度は「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例で定めるところにより(中略)地方公共団体が指定するもの(指定管理者)に、当該公の施設の管理を行わせることができる」(地方自治法244条の2 第3項)と、例外としております。
指定管理者に委ねることによって、図書館設置の目的が効果的に達成できることを示さなければなりません。図書館サービスと管理運営の現状を分析し、克服すべき課題を明確にし、その解決のためには指定管理者に委ねることが欠かせない、必要であることを明らかにすべきです。「骨子」には、"CCCが運営する書店のコンセプト及びノウハウを導入"とあり、「9つの市民価値」には"20万冊の知に出会える場所""蔦屋書店のノウハウを活用した品揃えやサービスの導入"と抽象的です。図書館サービスに直接言及した改善点が希薄であり、明確ではありません。

2 指定管理者制度導入の手続きについて

 指定管理者制度の導入にあたっては、指定の手続、指定管理者が行う管理の基準、業務の範囲を条例で定めることになっています(地方自治法244条の2 第4項)。これらについて6月市議会で審議されるようです。政府はかねてから、これについて具体的事例を挙げ行政指導をしています。
指定管理者の選定基準設定にあたっては、「当該施設の態様に応じ、公共サービスについて専門的知見を有する外部有識者等の視点を導入すること」(「平成20年度地方財政の運営について」2008年6月総務事務次官)を重視し、「選定委員には施設の行政サービス等に応じた専門家が確保されているか」(「指定管理者制度の運用上の留意事項」2008年6月総務省自治行政局)などを指摘しています。
 「武雄市図書館・歴史資料館設置条例」によると「図書館・歴史資料館の運営について、教育委員会の諮問に応じ、必要な事項を調査審議するため、武雄市図書館・歴史資料館協議会を置く。」とあります。今回の提案は図書館の運営上重要な課題と考えますが、この件に関して上記協議会がどのような判断されるか注目します。
 また総務省は、「複数の申請者に事業計画書を提出させることなく、特定の事業者を指定する際には、当該事業者の選定理由について説明責任を果たしているか」(前掲 総務省自治行政局)と「留意事項」に挙げております。

3 図書館サービスと「付属事業」について

 「9つの市民価値」に列記された多くの点は、「骨子」に言う"重要な手段として展開する付属事業"を色濃く出すものとなっております。図書館の基本的サービスとは無関係のことであり、指定管理者制度導入の理由にはなりません。その必要性についても説明すべきことです。
総務省は、指定管理者との間で「自主事業と委託事業について明確な区分が定められているか」を指摘しています(前掲 総務省自治行政局)。図書館事業と指定管理者の自主事業(ここでいう「付属事業」)とを混同しないよう求めています。雑誌販売や文具販売、あるいはTカード、T ポイントの導入が、"重要な手段として付属事業の展開"と位置付けていることについて、疑問を抱かざるを得ません。

4 安定的な労働環境

 開館日・開館時間は現行の約1.6倍になるようです。そのために必要な人員も相当増加するものと思われますが、経費は現行1億4,500万円を1割削減できると説明されています。
当協会は指定管理者制度導入の実態調査から、経費削減により図書館で働く人たちの賃金等労働条件に安定性を欠く事態を招くことを問題点のひとつとして挙げてきました。安心して継続的に業務に専念できなくなる結果、司書の専門性の蓄積、一貫した方針のもとに継続して実施する所蔵資料のコレクション形成が困難になることの懸念です。利用者サービスの低下に繋がらないための労働環境が必要です。
 総務省が「委託料については、適切な積算に基づくものであること」(前掲 総務事務次官)、「指定管理者の選定にあたっても、指定管理者において労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮がなされるよう、留意すること」(総務省自治行政局長 2010年12月)をあえて指摘していることを重視するものです。

5 図書館利用の情報

 従来の図書館カードとは別に、図書館利用カードとして「Tカード」の導入が構想されています。これはポイント付与と一体になっていることから、利用者の個人情報(貸出履歴)は「Tカード」管理者に提供される可能性があります。図書館の管理・運営上の必要性から必然的に集積される個人の情報は、本来の目的以外に利用されること自体を想定しておりません。図書館の管理・運営とは基本的に関係のないことへの利用は、「利用者の秘密を守る」ことを公に市民に対して約束している公共図書館の立場からは肯定しがたいことです。
このことは、当協会が図書館運営のよりどころとして示している「図書館の自由に関する宣言」では「図書館は利用者の秘密を守る」ことを明らかにしていますが、これは「図書館利用者は、個人のプライバシーと匿名性への権利を有するものである。図書館専門職とその他の図書館職員は、図書館利用者の身元ないし利用者がどのような資料を利用しているかを第三者に開示してはならない。」(「IFLA図書館と知的自由に関する声明」1999年3月25日国際図書館連盟理事会承認)と国際的にも公認された原則です。
特定の個人の利用履歴ではなく、例えば40代・男性が利用した資料などのデータは、図書館運営の評価等にとって重要なものであり、図書館で収集、活用されています。これが図書館運営と無関係に、指定管理者の企業の本来事業に活用するために提供できることか、慎重な検討が必要です。指定管理者にそのような便宜を与えることが許されるか、先に挙げた総務省の言う「自主事業と委託事業について明確な区分」との関連も含めて考えるべきことです。

6 図書館利用へのポイント付与

 「Tカード」を使用することにより、その貸出実績に応じてポイントが付与されることを"重要な付属事業"と説明されています。図書館は他の施設と異なり収益が伴わないものであり、指定管理者の収入は専ら自治体からの委託料のみのはずです。「ポイント」の原資は何か、またそれは行政サービスとは異質のサービスではないか疑問が生じます。公の施設のあり方、指定管理者制度のあり方にも関わる内容があるのではないか、と思われます。
 武雄市図書館の指定管理者制度導入の構想について、これらの解明を通じて、よりよい図書館づくりとなるよう期待します。当協会もそのための支援、協力をすることを表明するものです。

提携により武雄市図書館にて実現する9つの市民価値
1. 20万冊の知に出会える場所
2. 雑誌販売の導入
3. 映画・音楽の充実
4. 文具販売の導入
5. 電子端末を活用した検索サービス
6. カフェ・ダイニングの導入
7. 「代官山 蔦屋書店」のノウハウを活用した品揃えやサービスの導入
8. Tカード、Tポイントの導入
9. 365日、朝9時~夜9時までの開館時間

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